法面防災技術協会
会長 西村 昭彦

 法面防災技術協会は20167月、基幹企業6社(会員名簿参照)の発意によって設立されました。

本協会は、法面内に排水装置を打設し、内部の水を排水することにより、対象とする法面の安定を図ることが可能な各種技術・材料・施工法の研究開発を行うとともにそれらを普及していくこと、またこれらの技術を応用し、既設の排水装置の再生についても技術開発を行い、安全な社会の実現に寄与することを目的としています。

この協会を設立することとなった経緯は次のとおりです。

 近年我が国においては、地球温暖化等の気候変動の影響により、時雨量が50mmを越える「非常に激しい雨」が増加する傾向にあります。昔はほとんどなかった時雨量が100mmを越えるような雨も年に何回かは観測されるようになってきました。この結果、土砂災害の発生件数も増加している現状があります。また、降雪地域においても同様融雪による土砂災害が起こっております。このような環境下で大雨による大規模な土砂災害が伊豆大島、広島県あるいは北九州で発生し、人命や社会インフラに大きな被害を受けたことは記憶に新しいところです。

この事態に対応すべく、土砂災害防止法が改正され、各都道府県は、土砂災害防止に関する調査結果を公表することが義務づけられました。

さらに、日本は有数の地震国であり、地震発生のたびごとに斜面や河川堤防の崩壊等土砂災害が起こることは皆様ご存じのとおりであります。2009年駿河湾地震では東名高速道路の高盛土が崩れました。

 土砂災害が生ずる原因として、地震の場合の慣性力はもちろんですが、降雨や融雪による地下水位の上昇も大きな原因であります。

 そこで、盛土や斜面内の水を速やかに排除し、しかも機能が低下しにくい排水工と、それを効率的に施工する技術を開発するため、基幹会員となる6社が集まって、法面防災技術研究会を平成27年(2015年)2月に発足させました。そして、北海道大学等の支援を受けながら排水工の材料や施工技術の検討等の研究を続けて参りました。

その結果、これらの技術の実用化の目処が立ち、この技術を普及するため法面防災技術協会を設立した訳であります。

まず我々は目詰まりしない排水パイプを開発し、これをDASSUIと名付けました。すでに雑誌等で紹介しており、皆さんの中にはすでにご覧になった方もおられると思います。

我々の有する技術はこの排水パイプを用いて実施するのが基本であります。

その一つは既設排水工の機能回復技術です。既設排水工の中を清掃し、DASSUIを既設北海道大学の磯部先生および長岡技術科学大学の宮下先生のご指導を受けながら、排水工より奥深く挿入する工法です。この施工には振動ドリルを用い、狭隘な場所でも施工できることが特徴です。

 二つ目はDASSUIを斜面に水平に施工する技術です。これはかなり長尺の鞘管(低強度鋼管または塩ビ管)を精度よく施工し、この中にDASSUIを配置するものです。この技術は低強度管や塩ビパイプも破損することなく施工できます。

三つ目は高盛土の排水と地震対策を兼用するもので、盛土の底部および上部に排水機能を備えたパイプを用い、盛土堤体を貫通させて設置し、その中にPC鋼棒等を通して両端を盛土表面に設置した鉄筋コンクリート性の梁に固定するものであります。この工法につきましては解析により、かなり広い間隔でも高い安全率を得ることが確かめられております。

 今後、これらの工法のさらなる進化を計ると共に、新しい技術の開発を行い、安全な社会の建設に貢献できるよう努力いたすつもりであります。今後とも皆様の暖かいご支援を心からお願いいたします。